日本の大規模な金融緩和の巻き戻しは、政治の現実と正面から向き合う局面を迎えている。日銀が数十年に及んだ超金融緩和政策からの出口を模索する中、選挙を控えた政治的不確実性が政策正常化への期待に影響を与えている。日本国債が直近3か月に示した6%の下落は過去25年で最悪とも言える局面であり、イールドカーブ全体に及ぶ歴史的な利回り急騰が背景にある。投資家にとって問題は、下方リスクがどの程度であり、過去のどのストレス事例がリスク評価の参考になるのかという点である。今日の状況に最も関連性が高い過去の局面には、共通のパターンが見られる。すなわち、国債・株式・円が同時に下落し、投資家は逃げ場を失ったという点である。
日本の金利レジーム・シフト
日本国債(JGB)の利回りは、歴史的なレジーム・シフトを経験しつつある。コロナ禍以降、10年国債利回りはマイナス圏から2%超へ、30年国債利回りは4%近くまで上昇し、短期金利も明確なプラス圏へと移行した。これは、超金融緩和政策の巻き戻しを反映している。日銀は2024年にイールドカーブ・コントロール(YCC)を撤廃し、2007年以来となる政策金利の引き上げを実施した。持続的なインフレと賃金上昇を背景に、マイナス金利政策からの脱却を意味する。
こうした正常化は、大きなポートフォリオ・リスクをもたらす。政府債務総額がGDP比200%超に達する中、小幅な金利上昇でも相当の財政コストにつながり、日銀の政策手段の余地を狭め、政策の持続可能性に疑問符が付くことになる。一方、実質短期金利は依然として大幅なマイナス圏にあり、名目金利が上昇したとはいえ、日銀はまだ引き締め領域から程遠い位置にある。
過去20年間、日銀がボラティリティを抑制してきたことから、JGBは概ね狭いレンジで推移してきた。しかし、そのレンジが崩れたため、急激かつ深刻な損失が生じた。ここで問われるのは、どの歴史的ストレス事例が、今日のリスク評価に最も参考になるのかという点である。
日本国債はストレス局面で急落する可能性がある
日本のトリプル安
下の表に示された、最大の3か月間の売り局面をまとめた事例の多くは、現在の状況には当てはまらない。2003年と2008年の下落局面は、国内の金融政策ストレスではなく、世界的な市場変動によって引き起こされたものである。1999年2月に発生した13%もの下落は極端なケースであり、銀行破綻と債務危機という危機的状況によるものだが、そうした懸念は今日存在しない。2013年6月のボラティリティは主にテクニカル要因によるもので、量的・質的金融緩和(QE)と流動性の逼迫によって引き起こされた。
2004年6月と2023年10月の局面は、最も関連性の高い類似例を提供している。2004年には、将来的なQE終了への期待だけで長期債がリプライスされ、株式は横ばいだったものの、国債と円はともに下落した。2023年には、イールドカーブ・コントロール(YCC)の持続可能性への疑念が高まり、国債・株式・円が同時に下落する「トリプル安」が発生した。現在の状況は、これら両方の要因が重なっている。すなわち、信認への圧力がかかる中で実際に金融政策正常化が行われようとしている上に、政治的不確実性が第3のリスク要因として加わっている。
今日と関連性の高い日本の歴史的な債券ストレス局面は、複数資産にわたる同時売りであった
3つの将来シナリオ
日本の政策正常化はどのように展開する可能性があるのか、またそれがマルチアセット・ポートフォリオにどのような影響を及ぼすのかを調べるため、3つのシナリオを設定した。「秩序ある正常化」シナリオの下では、日銀が市場の期待どおりに利上げを行い、米国との金利差が縮小する一方で円高となる。
日本の利回りはタームプレミアムの上昇に伴って上昇する。これはQE終了期待だけで長期ゾーンのリプライスが生じた2004年6月の動きそのものである。円高は株式にとって逆風となるが、リスクオフの売りは回避される。デュレーション損失は無視できないものの、円高がその一部を相殺する。
「財政リフレーション」シナリオでは、財政拡張を想定し、長期ゾーンを中心に日本国債利回りが急上昇する。国債増発に対する投資家のタームプレミアム要求が高まるためである。
株式は名目成長率上昇の勢いとリフレ期待から上昇する。日銀は慎重ながら利上げを継続する。円は、金利上昇が財政懸念を相殺する形で、レンジ内で推移する。
「信認ストレス」シナリオでは、政治的圧力を受けて日銀が後手に回る。市場はインフレ抑制に対する信認を失い、円が急落する。利回りが急上昇し、特に長期ゾーンに損失が集中する。投資家が財政リスクとインフレリスクに対してより高い補償を求めるためである。リスクオフの市場行動が支配的となるにつれて株価が下落し、円安も支えにならない。なぜなら、競争力を高める良い円安ではなく、信認喪失に起因する悪い円安だからである。その結果、トリプル安が生じる。すなわち、国債、円、株式が同時に下落し、投資家が最も必要とする局面で分散効果が削がれる。このシナリオではグローバルな波及効果をモデル化していないことに留意されたい[1]。
当社シナリオの前提条件
日本のポートフォリオへの影響
60%の日本株と40%の債券で構成される仮想的なマルチアセット・ポートフォリオに、各シナリオのショックを適用した[2]。秩序ある正常化シナリオでは、円建て投資家の損失は2%と小幅にとどまる。株式が横ばいで推移するため、デュレーション損失が増幅されないためである。一方で米ドル建ての投資家は、円高がリプライシングを相殺することで2%の利益となる。財政リフレーション・シナリオは、最良の結果をもたらす。株式の上昇が債券の損失を上回るため、60/40ポートフォリオは円建て・米ドル建ていずれの場合も4%の上昇となる。信認ストレス・シナリオでは、分散効果が失われる。60/40ポートフォリオは円ベースで13%の損失となり、米ドル建て投資家は通貨急落が現地通貨建て資産の損失をさらに増幅するため、23%のドローダウンを被る。このようにして、トリプル安が実際に顕在化していくことになる。
信認ストレスは、とりわけ米ドル建て投資家に最も深刻な打撃を与える
トリプル安の発生を待つべきでない
日本の金融政策の正常化は進みつつある。問題は、分散効果が維持されるのか、それとも崩れるのかである。日本に対してエクスポージャーを持つ投資家は、次の局面が到来する前に、両方のシナリオに対してポートフォリオのストレステストを行うべきだろう。
執筆者一同、Zsofia Dabi氏の本ブログ記事への貢献に謝意を表する。