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関税は引き上げられるか?最もリスクが高いのはどの国か


5 mins read January 15, 2025 | Abhishek Gupta



Key findings

  • グローバルな株式投資家は、最終的なリスクの算定に重要な役割を果たす企業の収益の出所と製造拠点に関する情報を組み合わせることで、関税に関連したリスクをより明確に把握することができます。
  • MSCI経済エクスポージャーデータを用いた分析によると、世界の企業収益の18%が関税リスクに直面していることがわかります。特に顕著なのが自動車、資本財、テクノロジー・ハードウェアおよびエネルギーであり、その一部は既に株価に織り込まれています。
  • カナダ、メキシコ、中国の生産拠点から米国に輸出する企業は、米国国内で製造している非米国企業に比べ、新たな関税による大きなリスクに直面しそうです。

トランプ政権発足に向けた準備が進められる中、投資家と企業は世界貿易戦争の恐怖に怯えています。既に公表されているところでは、カナダ、メキシコ、中国などの主要貿易相手国からの米国への輸入品に高い税率で包括的な関税を課すとされています[1]。これらの国やその他の国がとり得る対応としては、米国の輸出品に対して報復関税を課すことが考えられます。投資家が今年以降のポートフォリオ戦略を見直すに際して、意思決定に役立つと思われる有益な情報は、潜在的な関税に関連する変化から最も影響を受ける企業やセクターについて総合的に理解することです。

米国発の関税が世界貿易のかなりの部分を混乱させる可能性があります。弊社は、MSCI経済エクスポージャーデータを用いて、企業収益と輸出先市場について分析しました[2]。世界の企業収益の40%弱が海外市場から得られており、その18%は米国の追加関税と潜在的な対抗関税のリスクにさらされている可能性があります。さらに、そのリスクは米国に輸出する非米国企業(8.4%)と海外に輸出する米国企業(9.7%)で均等に分かれました[3]

潜在的な関税で世界の企業収益の18%が脅威にさらされている

2024年11月29日時点のデータ。MSCI経済エクスポージャーデータを用いて算出した、MSCI ACWI Investable Market指数(IMI)の構成企業の原産地市場と仕向先市場間の世界の企業収益のシェア。

国別・セクター別の関税リスク

米国市場に販売している上位5カ国(米ドル建て収益)は、日本、ドイツ、英国、中国およびカナダです。これらの国のうち、自動車と自動車部品の輸入では、日本、ドイツ、韓国の自動車メーカーからのものが大部分を占めており、エネルギー輸入では中国、英国、カナダの企業からが上位を占めています。資本財と素材も米国の輸入総額のかなりの部分を占めていますが、輸出国は細かく分かれています。医薬品、食品・飲料や耐久消費財といった他の産業が米国の輸入総額に占める割合は低いのですが、米国の需要に依存していることでリスクにさらされる可能性があります。

世界の非米国企業の米国に対するエクスポージャーは、自動車・自動車部品、資本財およびエネルギーで最も高い

This exhibit is a bar chart that illustrates how industry groups and firms domiciled in various nations and regions are likely to be impacted by higher global trade tariffs. The least impacted industries are REITs, real-estate management and development, consumer discretionary and household and personal products. The most impacted are automobiles and components, capital goods, energy and technology hardware and equipment. Japanese, German and Korean firms are most vulnerable in the automobiles and components industry group.
2024年11月29日時点のデータ。GICS®産業グループ別と国別のMSCI ACWI(米国を除く)IMI指数構成企業の米国における収益。MSCI経済エクスポージャーデータに基づく。GICSは、MSCIとS&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスが共同で開発した世界産業分類基準です。

収益エクスポージャー以外にも、企業の生産拠点の所在地がもう一つのリスクになる可能性があります。例えば、日本の自動車メーカー数社はメキシコで自動車を生産しています。メキシコからの輸入品に対する米国の関税率が引き上げられれば、日本で製造している企業と比べて、これらの企業は不釣り合いな影響を受ける可能性があります。

以下のヒートマップ分析は、MSCI経済エクスポージャーデータとMSCI GeoSpatial Asset Intelligenceデータを組み合わせ、米国と経済的に結び付いている企業(収益の10%以上を米国から得ていると定義)のうち、カナダ、メキシコまたは中国に生産拠点を持ち関税引き上げの影響を受ける可能性のある企業の数をハイライトしたものです[4]。弊社のデータベースに入っている約390社の非米国企業がこの基準に当てはまります(うち90社がカナダ、メキシコまたは中国の企業)[5] 。日本企業が最もエクスポージャーが高く、資本財28社と自動車業界18社を含め91社がリスクにさらされています。多くの欧州企業も、収益の依存度と生産拠点が似通っているため、リスクにさらされる可能性があります。

米国の関税引き上げの影響を受ける上位に日本と中国の企業が並ぶ

This exhibit is a heatmap that compares the number of firms by country or regional market in which industry group are likely to be most impacted by higher U.S. tariffs. The highest number of firms is 28 in the capital goods industry in Japan. Japanese firms across industries have the greatest exposure, followed by Chinese firms, which have the greatest exposure (17 firms) in the technology hardware and equipment industry.
2024年11月29日時点のデータ。米国に対して10%以上の経済エクスポージャーを持ち、カナダ、メキシコまたは中国に製造、産業または生産拠点を持つMSCI ACWI IMI指数を構成する非米国企業の数。出所:MSCI経済エクスポージャーおよびMSCI GeoSpatial Asset Intelligence

これから新たな関税措置が導入されようとする中、市場は既に特定の業種について織り込み始めています。例えば、米大統領選挙の前後数カ月間に、自動車・自動車部品業界のパフォーマンスは地域によって大きく差がつき、欧州、日本、韓国で下落し、米国ではアウトパフォームしました。対照的に、米国への自動車輸出がまだ限定的な中国では、その影響は抑えられています。

関税追加の可能性が、自動車・自動車部品業界の地域別パフォーマンスに反映された

This exhibit is a chart that plots the performance of the automobiles and components industry in the U.S., Europe, Japan, Korea and China from June 1, 2024, through Nov. 29, 2024. The date of the U.S. elections (Nov. 6) is shown as a dotted line. U.S. performance rises strongly after Nov. 6 following an erratic pattern since June 1. In contrast, the performance in China has been steady over the period, whereas the performance of Europe, Japan and Korea has slipped gradually since June 1. Europe had the lowest performance at the end of November, and Japan was a close second.
データ期間は、2024年6月1日から2024年11月29日まで。自動車・自動車部品業界のパフォーマンスは、次の地域別株式リスクモデルを用いて計算されました:米国はEFMUSALT、欧州はEULT、日本はJPNEFMLT、韓国はKRE3、中国はCXE1。2024年11月29日時点で、EFMUSALTの自動車・自動車部品業界に対するファクターポートフォリオに占めるTesla Inc.のウェイトは37%でした。

対抗関税の危険性

関税引き上げに直面する米国の貿易相手国が米国からの輸入品に対して独自の関税を課すことになれば、収益の4分の1を海外市場から得ている米国企業も影響を免れません。例えば、2024年11月時点で、中国は米国製品の最大の最終市場であり、米国の中国への輸出額は、中国に次ぐ輸入国である英国の2倍以上になっています。テクノロジー、半導体、エネルギー、資本財、その他の産業における米国の輸出が、そうした潜在的な報復の影響を直ちに受けます。しかし、実際には企業のサプライチェーンは極めて複雑で、中間投入物が最終的生産に達するまでに何度も国境や地域をまたぐことがあります。

経済的エクスポージャーと地理空間分析を組み合わせて得られる明確な洞察

企業に与える関税の影響は見かけ以上に複雑であり、企業が売上を立てる場所以外に営業する場所によっても影響を受けます。米国市場に依存する非米国企業は大きなリスクに直面しますが、輸出に依存した産業を中心に、米国企業も同等に潜在的な報復措置による被害を受ける可能性があります。経済的エクスポージャーと地理空間データを用いた弊社の分析では、特定の産業に関わる特定地域の企業に焦点を絞り込むことができました。

Footnotes

  1. 米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく米国、メキシコ、カナダ間の貿易は、2020年7月1日に発効しました。米国がカナダとメキシコからの輸入に高い関税を課すことになれば、同協定で定められた税率を上回る輸入税率につながる可能性があります。
  2. 詳しくは、 MSCI経済エクスポージャーデータ・メソドロジーをご覧ください。
  3. MSCI ACWI IMI指数構成銘柄のウェイトのおよそ32%が関税リスクにさらされており、うち米国の関税措置に脆弱な非米国企業が6.5%、潜在的な対抗関税のリスクにさらされる米国企業が25.5%となっています。これらのパーセンテージは、指数構成銘柄の指数加重平均経済エクスポージャーを用いて算出されました。
  4. MSCI GeoSpatial Asset Intelligenceデータには、上場企業が所有または営業する実物資産に関する情報が収録されており、空間的属性と非空間的属性などの要素(例えば、地理的座標)や施設で実施されている活動の種類などが含まれます。
  5. 2024年11月29日時点で、非米国企業390社は時価総額加重MSCI ACWI IMI指数のおよそ9%を占めており、指数加重経済エクスポージャーは3%です。
Abhishek Gupta
Abhishek Gupta

​​Executive Director, MSCI Research