2019年に注目すべきESGトレンド

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January 22, 2019
今後予想される長期的な市場の変動1に身構えている者は多いが、ESG投資家にとってそれは既に始まっている。当社が挙げる「2019年に注目すべき5つのESGトレンド」のそれぞれに、見過ごされている可能性のあるコスト、そしてビジネスチャンスが含まれている。
もう一つの貿易戦争:プラスチック廃棄物
中国が2018年1月1日から24種類の固形廃棄物の受け入れを停止したことを受け、世界の廃棄物貿易は衝撃に見舞われた。受け入れ停止の対象には、輸出されたプラスチック廃棄物という最も一般的な形態の固形廃棄物が含まれている2。廃棄物輸出国は中国の決定を受け、廃棄物の新たな市場を一斉に探し始めている。中には、廃棄物削減に向けた規制を真剣に検討している国もある。
明らかな対象業種以外にも、多くの企業がプラスチックおよびプラスチック関連規制の対象となる可能性がある
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当社は2019年に、企業と投資家が「マーケティング上の優先事項としてではなく、事業上の課題としての廃棄物削減」という新たな現実への対処を余儀なくされると考えている。 企業はこれを自覚しており、2018年に「プラスチック廃棄物」への言及があった投資家向け収支報告の件数は前年比で340%増加した3。影響を受ける可能性があるのは、明らかな対象業種だけではない。当社がMSCI USA IMI(MSCI米国インベスタブル・マーケット指数)を構成する2,450社(2018年12月12日時点)4の規制当局への届け出書を分析したところ、関連業種は農産物やオフィスサービス・用品を含む12業種に上ることが判明した。世界の目は米中貿易戦争に注目しているが、廃棄物に関する世界的な戦争はまだ広がり始めたばかりだ。
ESG投資のビジネスが規制される
大半のESG関連規制は発行体を対象としてきた。実際、2018年は世界的に発行体を対象とした規制の数が投資家を対象とした規制の数を上回り、その比率はほぼ2.5対1であった5。ところが、この比率は2019年に逆転する可能性がある。規制当局がESG投資のビジネスに対する監視を強化する中、投資家(資産保有者と資産運用会社の両方)に対し、ESG投資分野における規制上の要求が高まることが予想される。当社の概算では、現在保留または検討中の規制の対象となる運用資産は2018年の時点で32兆6,000億ドルに達することが見込まれる6 。
ESG規制の数は2000年以降に増加している
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機関投資家の準備はできているか?機関投資家はどのように反応する可能性があるか? 投資家(主に大手の資産保有会社)およびその他の金融機関の役割と義務の明確化を目的とした対策はいくつかあるが、投資家は、そうした対策について、自らの投資プロセスにおけるESGの取り扱いへの批判的な見方を表向きには減少させることから、有用とみなすかもしれない。一方、ESG投資商品の分類を目的とした取り組みに対する反応は、特に資産運用会社においては曖昧で異論の多いものとなる可能性がある。
気候変動リスクのそう遠くない将来
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の地球温暖化の影響に関する最新の報告書は、世界のCO2排出量を2030年より前に減少に転じさせる必要があると結論付けている7。この結論がESG投資家に提示するタイムラインは、「2019年に実行する投資配分は、払い込みが完了する前の時点で低炭素社会への移行(すなわち気候変動リスク)の加速に配慮したものにする必要がある」というものだ。不動産などの民間資産は特に影響を受ける可能性がある。 当社は、米国フロリダ州内の200種類のZIPコードに該当する456件の商業不動産(時価総額は220億ドル)を対象に集計したMSCIリアルエステートのデータを使用して8、これらの不動産物件の51%が海面上昇の危機に瀕していることを見出した。これらの物件の5件に1件(20%)が水害の起きやすい地域に2000年以降に建てられたもので、耐用期間が終了する前に海面上昇の影響を受ける可能性がある9。
フロリダ州では、海面上昇によって海岸線が今後数十年で水没し始める中、様々なリスクとビジネスチャンスが生まれる
Florida will have different risks and opportunities as sea level begins to inundate coastlines over the next decades

とはいえ、将来に全く希望が持てないわけではなさそうだ。一部の投資家は気候変動の影響に関するノウハウを蓄積しており、水源利権付きの土地を獲得したり10、長期間にわたって農作物が栽培されいる農地を活用したりしている11。
ビッグ・シグナル革命
著名投資家のピーター・リンチがその著書『ピーター・リンチの株で勝つ (One Up on Wall Street)』12で述べた「know what you own(何を保有しているかを知り)...」という格言はよく知られているが、その後半部分「… and why you own it.(なぜそれを所有しているのかを知る。)」というくだりは見過ごされがちだ。 「ビッグデータ」革命により、投資家は企業による自発的な情報開示に以前ほど頼らずに済むようになっている。代替的な情報源からのESG情報の領域は、自発的開示の改善をはるかに上回るペースで拡大し続けているからだ。 だが、データだけではリンチ氏の格言の後半部分「… なぜそれを所有しているのかを知る」に対処できない。そしてこの質問こそが、投資家がデータの全容を理解し、最も関連のあるシグナル(行動を促す合図)を抽出する最高の手助けとなる。 MSCI ESG格付けの今後10年間を展望すると、より多くのデータを集めるのは比較的容易な部分だ。困難で、しかも重要な部分は、最も関連性の高い指標を特定して適用し、格付けと調査の重要性を高めることであろう。
透明性の時代におけるリーダーシップ
企業の経営者と従業員、市場と政府を隔てる壁の崩壊がリーダーシップをレピュテーションリスクにさらし、さらには投資家を新たな脆弱性に直面させてきたことは周知の通りだ。 だが2019年は、投資家はスキャンダルが起きた後で「取締役会は何を知っていたのか。そしていつ知ったのか」と尋ねるのをやめ、スキャンダルが起きる前に「私の権利は何か?」と尋ね始めると当社は予想している。 一部の企業がスキャンダルの後でさえ変化とは無縁に見える中、こうした投資家の変化は重要である。当社において、MSCI ACWI指数を構成する2,675社の2015年以降の不祥事やリーダーシップを巡るその他の不祥事に関するデータを検証した結果、3年以内に取締役とCEOを刷新した頻度は、平均して、投資家の影響がより及びやすい企業(取締役の58%、CEOの44%が置き換えられた)に比べ、投資家の影響が小さい企業(取締役の49%、CEOの14%が置き換えられた)では、はるかに低いことが判明した。
巻き起こった不祥事に対する企業の反応は投資家の影響の度合いによって異なる
Average change in board and CEO in the next three years for companies flagged with "misconduct" cases,  by Investor Influence Percentile

「いつの日か」が訪れている
プラスチック廃棄物の貿易戦争、新たな規制、あるいは透明性の時代におけるリーダーシップのいずれに対処するにせよ、ESG投資家を取り巻くトレンドには共通点が1つある。それは、今日の行動が明日の違いを生むかもしれない、ということだ。

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1 https://www.plansponsor.com/institutional-investors-bracing-continued-market-volatility-2019/2 https://resource-recycling.com/resourcerecycling/wp-content/uploads/2017/07/CHN1211.pdf3 Seeking Alpha, MSCI ESG Research4Screening criteria (a) more than 3 companies in GICS-sub industry (b) 25% or more companies in the GICS sub-industry with greater than 10% exposure to the plastic related keywords in through company 10-Ks, focusing on the pertinent sections of the reports: Business, Risk Factors, Management’s Discussion, Analysis of Financial Condition and Results of Operations. Notably two GICS sub-industries that didn’t meet the minimum companies in industry screening criteria but had high exposure and 100% companies exposed to these issues were (1) brewers and (2) housewares & specialties.5 See PRI’s regulation map updated and complemented by MSCI ESG Research6 Data from 2017 and 2018 using most recent available. Covers China, Canada, South Africa, Japan, European Union members and South Korea. Sources: PricewaterhouseCoopers, Boston Consulting, Investment Funds Institute of Canada, Nomura Research and Korea Herald.7 https://www.ipcc.ch/sr15/8https://www.globalchange.gov/browse/multimedia/south-florida-uniquely-vulnerable-sea-level-rise 9 Uses the average lifespan of a commercial property estimated at 50 years.10 https://www.wsj.com/articles/harvard-quietly-amasses-california-vineyardsand-the-water-underneath-1544456396 11http://www.agr.gc.ca/eng/science-and-innovation/agricultural-practices/climate-change-and-agriculture/future-outlook/climate-change-scenarios/length-of-growing-season-in-ontario/?id=1363033977515 12Lynch, P. (1989). “One Up on Wall Street: How to Use What You Already Know to Make Money on the Market.” New York, NY. Simon & Schuster.

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